特別受益

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「特別受益」や「特別受益の持戻し」といった制度は、不動産などの財産について相続分の計算を行ったり、複数の相続人の間で公平性を保ったりするために重要となる制度です。このページでは、特別受益について分かりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

特別受益(とくべつじゅえき)とは?

特別受益とは?

特別受益とは、相続人が被相続人から生前贈与を受けたり、遺贈によって財産を譲り受けたりした際の利益分を指します。

複数の相続人が存在する場合、相続対象となる財産は特別受益の分を加えたものとなり、改めて相続財産の分割方法が協議されます。そのため、遺産相続に関する協議や公平性を考える上で、特別受益の存在や仕組みを把握しておくことは重要です。

特別受益の目的は?

特別受益は民法903条において規定されている制度であり、その目的は遺産相続時における公平性の確保です。

例えば、一部の財産に関しては、被相続人が遺言や生前贈与によって誰に財産を譲り渡すのか決められる自由があります。一方、遺留分に関しては、被相続人が財産の使い道を決めることができず、あくまでも全ての相続人に対して公平な分配が求められます。

そのため、生前贈与や遺贈によって特定の相続人だけが利益を独占しないように、相続時には特別受益が考慮され、公平な相続を保つことが重要です。

※参照元:e-Gov法令検索|民法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)

特別受益の持戻し

「特別受益の持戻し」とは、特別受益の対象となる財産を、被相続人が亡くなった際に保有していた財産へ加えて、改めて相続財産の分割法を考える制度です。特別受益の持戻しを行うことによって、それぞれの相続人にとって公平な遺産分割協議を進めることが可能になります。

特別受益を考慮しない場合もある

「特別受益の持戻し免除(民法903条3項)」という意思表示を行った場合、特別受益を考慮せずに遺産分割協議をスムーズに進められることもあります。ただし、特別受益の持戻し免除が実行されていた場合でも、後から遺留分として最低限保証されている財産について侵害されていたと判明すれば、改めて「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」という問題が生じるため、順序立てて対処することが必要です。

特別受益者となる人は?

すでに特別受益を受けている相続人を、他の共同相続人と区別するため「特別受益者」と呼びます。ただし、その人が特別受益者になるかどうかは、他の共同相続人との関係などによって判断されます。

推定相続人

推定相続人とは、その相続に関連して法定相続人になると考えられる人のことです。推定相続人が被相続人から生前贈与や遺贈を受けている場合、その推定相続人は特別受益者として考えられます。

なお、特別受益者になっている人が、被相続人よりも先に亡くなっている場合、相続権を承継した「代襲相続人」に関して特別受益が考慮されることもポイントです。

例えば、被相続人(親)から生前贈与を受けていた特別受益者(子)が、被相続人(親)よりも先に死亡した場合、代襲相続人としては孫が該当します。

代襲者/代襲相続人

代襲者とは、推定相続人から権利を承継する人を指し、例えば被相続人(親)と推定相続人(子)に対して、孫がその立場に当たります。

被相続人から代襲者へ贈与された財産について、被相続人の死亡時に特別受益として持戻しの対象になるかどうかは、ケースバイケースとなっているため順序立てて判断しなければなりません。

仮に、祖父(被相続人)から孫(代襲者)へ生前贈与があったとして、その時点で推定相続人(子)が生きていれば、その時にまだ孫は代襲相続人になっていないため特別受益としても考慮されません。しかし、被相続人が死亡する前に推定相続人(子)が死亡していた場合、相続発生時には孫などに代襲相続人としての権利が生じるため、このような場合は特別受益者として判断されます。

なお、これらはあくまでも原則的な話であり、実際に代襲者/代襲相続人が特別受益者になるかどうかは個々の判断が必要になることもあります。

推定相続人になると予定されている人

例えば、被相続人と婚約していた人や、養子縁組の手続きの最中にあった人など、被相続人が死亡しなければやがて推定相続人になっていたであろうと判断される人について、「推定相続人になる予定の人」として考えることが可能です。

このような、推定相続人になる予定の人の場合、特別受益者になるかどうかは、どういう理由や動機で被相続人から財産を譲り受けたかによって判断が異なります。

基本的に、正式に推定相続人となっていない人の場合、被相続人から生前贈与や遺贈を受けたとしても特別受益者としては考えられません。しかし、そもそも生前贈与の目的が結婚や養子縁組を行うために必要なものであった場合や、すでに手続きの準備が整っていたからこそ生前贈与がなされたというような場合、本質的には推定相続人と同等として、「推定相続人になる予定の人」も特別受益者とされる可能性があります。

相続人の配偶者・親族など

相続人の配偶者や親族は、そもそも被相続人の遺産に関与しません。そのため特別受益者としても該当しません。

ただし、名義上は相続人の配偶者や親族への生前贈与であっても、実質的に相続人への贈与を目的とされていたような場合、例外的に特別受益者として考慮される可能性もあります。

特別受益の対象となり得る財産

特別受益として考えられる財産は、被相続人から共同相続人へ対して実施された一定の贈与分となります。ただし、具体的にどのような贈与が特別受益となり、あるいはならないかは、民法903条の規定を除いて詳しい法律がありません。

また、一般的に特別受益と判断されそうなケースであっても、被相続人の生活レベルなど個々の状況を鑑みて単なる贈与として扱われることもあり、実際には裁判所の判断で決定されることもあります。

ここでは、ひとまず一般的に特別受益となる可能性のある財産についてまとめました。

婚姻費用・養子縁組のための費用

一般的に、婚姻や養子縁組に関連した費用は、民法903条1項によって特別受益の対象として規定されています。しかし、具体的にどのような費用が婚姻費用や養子縁組のための費用に当たるか、詳細は実態にもとづいて判断されます。

例えば、娘が結婚するからと挙式費用の全額を親が支払っていた場合、それは特別受益に該当するかも知れません。対して、結婚のお祝いとして身内に数万円のお祝い金や支度金などを渡しているだけの場合は、特別受益に該当せず、単なる贈与として考えられることもあり得ます。

不動産

不動産の贈与は一般的に高額となりやすく、特別受益の対象になることが通常です。また、住宅資金を援助してもらった場合など、不動産を取得するための資金贈与に対しても金額によって特別受益となるでしょう。

借地権

被相続人名義の土地へ、相続人が住宅を建てて借地権が設定されたような場合、実態として借地権相当額の贈与となって特別受益になる可能性があります。また、借地権の名義を変更する場合についても同様です。

現金・有価証券・債権など

現金や有価証券などを被相続人から譲り受けた場合、金額によっては特別受益として考えられます。

重要なポイントは、本来の相続分が渡されたのかどうかであり、相続財産の範囲外で単なる小遣いや慰労金を渡す場合は特別受益に該当しません。

高等教育費

大学以上の教育機関への進学や、留学など、現代的に高等教育として考えられる進学に関連した費用についても、特別受益として考えられる可能性があります。

ただし、各家庭の教育環境や他の親族との関係性から、例えば大学進学は当然のものとして判断されるような場合、扶養の範囲内として特別受益の対象から外れる場合もあります。

そもそもの前提は被相続人の資産状況による

民法903条では、特別受益の対象として婚姻にかかる費用や養子縁組のための費用などが規定されていますが、実際には被相続人の生活レベルや資産状況も考慮した上で、特別受益になるかどうかが検討されます。

例えば、年収3億円の人が100万円の挙式費用を支払っていた場合と、資産300万円の人が100万円の挙式費用を支払っていた場合では、相続に与える影響も異なるでしょう。そのため、前者は単なる贈与として考えられ、後者だけが特別受益として判断されることもあります。

特別受益の判断は判例や個々の状況にもとづいて下されるため、複雑になりそうな場合は弁護士などの専門家へ相談することが大切です。

特別受益の対象にならない財産

被相続人の持ち家に相続人が同居して住居費や生活費をまかなわれているような場合、特別受益として該当しない可能性があります。

また、特定の人物を受取人とした生命保険金については、「受取人固有の財産」として相続対象から外されるため、原則的に特別受益の対象となりません。加えて、遺族が受け取る被相続人の死亡退職金など、ケースバイケースの判断が必要になるものもあります。

その他、2019年の法改正によって特別受益の対象から外れたものもあり、詳細は専門家へしっかり相談して確認しましょう。

特別受益に関連する制度と法改正

特別受益の持戻し期間は10年

かつては特別受益に関わる生前贈与に関して期間が定められていませんでしたが、特別受益について2019年に法改正が実施され、対象となる生前贈与は「相続開始前の10年間に行われたもの」と改正されました。

そのため、例えば15年前に生前贈与された分については特別受益の対象外となります。

配偶者と自宅に関する持戻し免除

配偶者への「持戻し免除」についても法改正が行われ、結婚期間が20年を超える配偶者に対して、自宅が生前贈与、もしくは遺贈された場合、原則として特別受益の対象外になることが定められました。

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このページの監修
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引用元:東京スカイ法律事務所公式HP
(https://www.tsky.jp/)

このサイトは「東京スカイ法律事務所」の田中健太郎弁護士に監修していただいています。同氏は弁護士と行政書士、両方の資格を所持し、弁護士になる前は司法書士として活躍していたという経歴の持ち主。不動産相続に関する豊富な知識と実績を持つ弁護士です。
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