不動産の生前贈与

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このページでは、不動産の生前贈与についてメリット・デメリットや、実際に不動産の生前贈与を考える際の注意点などをまとめています。不動産の生前贈与の基本を理解して、自分にとって生前贈与をした方が良いのかどうかを考えていきましょう。

生前贈与とは?

そもそも生前贈与とは?

生前贈与とは、文字通り自分の財産について、自分が死ぬ前に任意の人へ贈与しておくことを指します。

そもそも自分の所有している財産を他人へ譲渡する場合、一般的に「贈与」として扱われ贈与税が生じます。生前贈与も贈与の一形態であり贈与税の対象となりますが、死後に遺産として相続される分を生前に贈与しておくという目的から、「生前贈与」という言葉を使って区別されることがポイントです。

相続と生前贈与との違い

不動産の所有者(被相続人)が死んで、不動産を相続する場合、相続人に対して相続税が課せられます。

一方、生前贈与の場合は贈与を受ける人(受贈者)に対して贈与税が課せられます。

贈与税と相続税

贈与税とは、1年の間で贈与された財産に対して課税される税金です。なお、年間110万円までは基礎控除の対象となり申告する必要はありません。そのため、年間110万円を超えた分について贈与税が課税されます。

贈与税は累進課税となっており、10~55%の範囲で金額が上がるにつれ税率・税額も増加していくことがポイントです。また、贈与者・受贈者のそれぞれに年齢や性別などの制限はありません。

一方の相続税とは、被相続人の遺産を相続する際に課せられる税金です。通常は相続税の方が贈与税よりも安くなるため、一般的には生前贈与よりも相続税を選択する方が得とされています。

しかし、「相続時精算課税制度」のように相続税対策として活用されている生前贈与の仕組みもあります。

相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは、贈与者が満60歳以上の父母または祖父母であり、受贈者が20歳以上の推定相続人である場合に限って、累計で2,500万円までの贈与について非課税となる制度です。

言い換えれば、被相続人の死後に相続人として指定されると思われる息子や娘、または孫であれば、累計2,500万円まで贈与税がかからないということになります。

ただし、相続時精算課税制度を利用した場合、贈与財産が全て相続発生時に相続税の計算対象として組み込まれるため、結果的に相続税が大きくなってしまうといったリスクもあります。なお、2,500万円以上の贈与に関してすでに贈与税を支払っていた場合、納税した分は相続税から差し引かれることもポイントです。

生前贈与と相続はどちらがお得なのか?

基本的に、贈与税の方が相続税よりも高くなりがちなため、生前贈与をする方が損をするとされています。しかし特定条件によって生前贈与の方が得になることもあるため、まずは基本を理解した上で、改めて自分にとってのメリット・デメリットを考えることが重要です。

不動産を生前贈与するメリット

贈与税が非課税になる場合がある

上述した通り、死後に遺産となる財産をあらかじめ分配しておく生前贈与であっても、贈与する資産や財産の価値に応じて贈与税が課税されます。

しかし、一定の条件を満たすことで贈与税の一部が非課税になることがあります。

贈与税の配偶者控除の特例

贈与税の配偶者控除の特例とは、婚姻関係を20年以上継続している夫婦間において、「自宅」について不動産の贈与を行った場合、2,000万円までが非課税になるという制度です。

加えて、贈与税にはそもそも年間110万円の控除が設定されているため、合計2,110万円までの自宅不動産であれば、生前贈与によって全額を非課税とすることが可能です。

また、一般的な生前贈与であれば、被相続人の死亡前3年以内の生前贈与について相続税の計算対象として含まれるものの、贈与税の配偶者控除の特例を利用した自宅不動産については相続税の計算から対象外となることも見逃せません。

ただし、そもそも配偶者については相続時に税額が軽減されるといった優遇制度も存在しており、必ずしも贈与税の配偶者控除を使った方が得になるとは限らない点に注意してください。

贈与相手を自由に決められる

相続の場合、基本的には法定相続人が被相続人の遺産を相続することになり、その割合も法律によって定められています。また、仮に被相続人が遺言書を作成していた場合でも、全ての財産を思い通りにできるわけでなく、遺留分については被相続人の遺志に関係なく法定相続人へ分配されてしまうことが重要です。

一方、生前贈与であれば誰に財産を贈与するのか、本人が自由に決められることがメリットです。そのため、被相続人の死後に遺産分割協議でもめそうな場合や、相続させたくない相手が法廷相続人・推定相続人の中にいる場合、生前贈与によって個人の意思を貫くことができます。

贈与時期を自由に決められる

当然ながら、相続の発生するタイミングは、被相続人が死亡した時点です。

対する生前贈与であれば、どの時期に贈与を行うか自由に決めることができます。

特に不動産に関していえば、地価の変動や社会情勢の変化によって物件価値が大きく変動することもあります。また、贈与税にしても相続税にしても不動産の評価額に比例することがポイントです。

そのため、将来的に不動産の評価額が増大すると予想される場合、あらかじめ生前贈与を行っておくことで、相続税の節税対策につながることがあります。

なお、毎年110万円ずつ贈与していくことで、非課税のまま財産を渡していくといった方法もあります。

収益物件の利益を受贈者のものにできる

例えばマンション経営やアパート経営といった不動産投資を行っている場合、収益物件を生前贈与の対象として考えることも可能です。

不動産そのものの譲渡に関しては贈与税などを考慮しなければなりませんが、不動産を収益物件として所有する上で発生する事業所得については贈与税の課税対象になりません。そのため、安定して収益を生んでくれている物件の場合、生前贈与しておくことで将来的な相続税の節税対策になることもあります。

ただし、不動産投資によって得られた利益(所得)については所得税や住民税の課税対象となるため、不動産投資を引き継いだ受贈者は改めてキャッシュフローや節税対策を考えていくことが必要となります。

不動産を生前贈与するデメリット

贈与税の方が相続税よりも税率が高い

贈与の方が本人の自由意思を反映させやすい以上、相続税よりも贈与税の方が税率も高く設定されることは自然です。

ただし、贈与税はあくまでも「贈与分」について課税され、相続税は「被相続人の遺産全て」に対して課税されることも重要です。

そのため、贈与する財産や相続する遺産の状況に応じて、どちらが必ず得になるか、また損になるかを言い切ることはできません。

不動産の取得・登記にかかる費用が高い

不動産の譲渡・取得には固定資産税評価額に応じた「不動産取得税」が発生し、さらに不動産の名義人を変更するために「登録免許税」が発生します。

贈与も相続も不動産を受け取ることに変わりありませんが、相続によって不動産を取得する場合は不動産取得税が非課税となり、登録免許税も贈与の場合より税率が低く設定されていることが特徴です。

そのため、不動産の生前贈与では不動産取得税・登録免許税の両方において、相続よりも高い出費となります。

相続開始前3年以内の贈与加算

相続が発生する前3年以内(被相続人の死亡前3年以内)の贈与については、贈与した財産を相続税の計算に組み込まなければなりません

そのため、根本的に相続税の節税対策として利用する意味がなくなります。

相続時に受けられる優遇制度を受けられない

生前贈与の場合、「小規模宅地等の特例」といった相続時に受けられる優遇制度を利用できません

加えて、相続開始前3年以内の贈与加算を利用してすでに不動産を贈与している場合、相続税の対象になるにもかかわらず小規模宅地等の特例を適用できなくなって、結果的に納税額が拡大する恐れがあります。

生前贈与によるトラブルを回避する上で重要なポイント

生前贈与によって相続時の遺産分割協議を円滑化し、相続問題を回避することが可能です。しかし相続人が複数いて、特定の相続人だけが生前贈与によって恩恵を被るような場合、結果的に他の相続人が相続時に不利になる可能性が高まります。そのため、生前贈与を行うことで家族・親族の間でトラブルに発展してしまう恐れがあるでしょう。

生前贈与でトラブルが発生しても、被相続人を含めて関係者はそのまま生活を続けられるので、ぎくしゃくした親子関係や家族関係を引きずってしまうかも知れません。

生前贈与を行うかどうかは個人の自由意思にもとづきますが、生前贈与によるトラブルを回避するためには、どうして生前贈与が必要なのか、生前贈与によってどのようなメリットを共有できるのかなど、不動産の相続や生前贈与に詳しい専門家の意見も聞きながらしっかりと情報共有を行っておくことが大切です。

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このページの監修
東京スカイ法律事務所

東京スカイ法律事務所公式HP

引用元:東京スカイ法律事務所公式HP
(https://www.tsky.jp/)

このサイトは「東京スカイ法律事務所」の田中健太郎弁護士に監修していただいています。同氏は弁護士と行政書士、両方の資格を所持し、弁護士になる前は司法書士として活躍していたという経歴の持ち主。不動産相続に関する豊富な知識と実績を持つ弁護士です。
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