不動産相続の疑問やお悩みについて、徹底解説
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このページでは、内縁関係であった男女間の遺贈に関して、その現状や、生前のうちに行える対策などを取りまとめてご紹介していきたいと思います。
「内縁」とは、「婚姻届が提出されていないものの、共同生活を営み、社会的にみて夫婦と認められる男女関係」です。別の言い方として「事実婚」とも呼ばれます。
そして、この内縁関係が認められると、法律上の夫婦と同様に認められる権利として、労働災害の遺族補償や遺族補償年金、死亡退職金などの受取人となることができる場合があります。そう聞くと、遺産相続の権利もあるのではと思ってしまいがちですが、内縁関係の場合、遺産相続には大きな壁があります。まずは、以下の例をご覧ください。
A.亡くなった男性に親も子もない場合、男性の持ち家を相続するのは、男性の法定相続人である姉ということになりますので、原則として明け渡しの求めに応じなければなりません。ただし、判例で、法定相続人から内縁配偶者への明渡請求は権利の濫用にあたるとされた事案があります。
前述の通り、内縁配偶者は遺族補償や死亡退職金などの受取人にはなる場合があるものの、法定相続人としては認められないため、このようなケースが起こりえます。
一般論としては、内縁配偶者は法定相続人でない以上、法定相続人である姉の請求に応じなければならないといえます。
但し、過去の判例で、法定相続人から内縁配偶者に対する相続不動産の明渡請求は権利の濫用だとして否定された例(最高裁昭和39年10月13日第三小法廷判決)もあります。従って、上記のケースにおいて、法定相続人である姉の請求が権利の濫用に該当する場合は、この請求は認められません。権利の濫用に該当するかどうかは、個別の事案により異なりますので、事案ごとに検討する必要があります。
※【死去した男性の家が、持ち家ではなく借家だった場合】
ちなみに、上記ケースと違い、死去した男性の家が持ち家ではなく借家だった場合は、法定相続人である姉が借家の賃借権を相続し、内縁の妻は相続できません。一方、男性に法定相続人がいない場合は、借地借家法により、内縁者に借家の賃借権が承継されます。
以上の通り、法定相続人からの請求が権利の濫用とされる場合はありえても、男性が所有する不動産や現金、有価証券などは内縁の女性に相続する権利はありません。とは言え、内縁の女性が、男性の財産を得る方法も存在します。
まず、死去した内縁相手に法定相続人がいない場合、通常では、男性の遺産はすべて国庫に入ってしまいますが、家庭裁判所に「特別縁故者」の手続きを行い、認められれば、遺産を取得することができます。ただし、あくまで裁判所が認めた範囲の財産となり、全財産が必ず得られるとは限りません。
一方、上記のように内縁相手に法定相続人がいる場合には、生前、被相続人が財産を遺贈する旨の遺言書を作成しておくことが効果的です。被相続人に兄弟姉妹以外の相続人がいると遺留分は差し引かれますが、そのような親族がいない場合、上記事案にある、被相続人の姉には遺留分は認められないため、全額を内縁相手は遺贈により財産を得ることができます。
ちなみに遺言書を作成するにあたっては、確実に遺言の効力が発生するよう、公正証書遺言を作成することが望ましいと言えます。自筆証書遺言も有効ではありますが、遺言書自体を遺族が見つけられないということもありえるからです。
内縁と婚姻の最大の違いは「法律上の結婚(婚姻)と認められるかどうか」です。法律上の結婚と認められるためには、夫婦お互いに婚姻の意思があることおよび婚姻届を出していることの2つの条件を満たす必要があります。
内縁の場合、婚姻の意思という条件こそ満たされているものの、婚姻届の提出という条件は満たされていないため、法的には結婚=婚姻状態であるとみなされないのです。内縁の期間が長く、事実上の夫婦であることが疑いない状況が続いたとしても、法律上の結婚(婚姻)と認められることはありません。
内縁関係であっても、前述のとおり労働災害の遺族補償や、遺族補償年金、死亡退職金などの受取人になることはできますが、逆にいえばそれ以外の権利というのはかなり限られています。特に相続に関しては「事実上の夫婦であっても、法的には被相続人(故人)の配偶者とはみなされないため、遺産相続ができない」という大きな壁があります。
そのため、内縁の妻(夫)が相続財産を得るためには「被相続人が内縁の妻(夫)に財産を遺贈するという趣旨の遺言書を作成しておく」「内縁相手に法定相続人がいない場合は、家庭裁判所で特別縁故者となるための手続きをとる」など、所定の手続きを済ませる必要が出てくるのです。
2018年7月、約40年ぶりとなる相続法の大幅改正が決まりました。改正が決まったものは、2019年から2020年にかけて順次施行されていきますが、その中でも気になるものとして挙げられるのが、2019年7月1日に施行された「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別の寄与の制度)の新設」です。
「特別の寄与」とは、簡単にいうと献身的な介護のことです。これまで、たとえば多忙な夫にかわって義父を献身的に介護してきたが、自分は法定相続人ではないので、介護しても相続財産をもらうことはできなかったという状況は多々発生していました。
それが今回の相続法改正により「法定相続人でなくとも、献身的に介護などをしていた親族は、法定相続人に対して、その介護による寄与分におうじた金額の請求をすることができる」という状況になりました。
この制度改正は非常に画期的ですが、残念ながら対象となるのは法定相続人ではない親族に限られます。つまり、内縁の妻(夫)の場合、どれだけ献身的に介護しても相続法的には親族と認められないため、法定相続人に寄与分の請求はできないのです。
つまり今回の相続法の大改正は、被相続人の親族にとっては大きな変化をもたらすものとなったが、内縁の者にとっては変化がないものということです。
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