不動産相続の疑問やお悩みについて、徹底解説
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本ページでは、遺産として借地権を相続する場合に直面しがちな問題点について取り上げ、その概要や対応策などについて解説しています。
まずは、よくありがちな事例として「地主からの不当な請求」に応じる必要はないというお話からご紹介していきましょう。
そもそも借地権とは、他人が所有する土地を借りて、その土地を利用する権利のことです。例えば、借地権者である父親(被相続人)が亡くなった際、地主から「借地権者が亡くなったのだから、土地を返してほしい」あるいは「賃貸借契約書の名義書換や名義書換料を支払え」と要求されるといったことがあります。しかし、こうした要求に応じる必要はありません。
借地上の建物と土地の借地権を相続するのに、地主の承諾は必要ない。実はこのことをご存知ない借地権者の方は多いようです。まして、借地権の相続者の方ならなおさらでしょう。借地権者の死亡を契機にして上記のような請求してくる地主は意外と多いため、注意が必要なのです。
ちなみに、借地権の相続の場合は、土地の賃貸借契約書を書き換える必要すらないのです。相続者から地主に「土地の賃借権(もしくは地上権)を相続により取得しました」と通知するだけでよく、相続人は被相続人の賃貸借契約書上の地位を承継するのです。ただし、土地に建つ建物が被相続人名義のものである場合、建物の登記については、相続人の名義に変更するよう、相続登記する必要がありますので、この点もご注意ください。
ただし、相続した借地権が定期借地権の場合には、注意が必要です。定期借地権には3種類(一般定期借地権・建物譲渡特約付借地権・事業用定期借地権)あります。
その中でも一般定期借地権とは、存続期間を50年以上とする借地権で、契約の更新や延長がなく、建物買取請求なども認められていないものです。この存続期間が満了すると借地権は消滅し、建物を解体して土地を地主に返さなければなりません。父親(被相続人)と地主の間で、どのような契約が交わされていたのかを確認する必要があります。
もうひとつ、前述の通り借地権を相続する場合には地主の許可は必要なく、通知だけで十分ですが、借地上の建物や借地権そのものを第三者に譲渡・売却するという場合には、地主の許可が必要であると民法で定められています。
無断で譲渡した場合には、契約違反での賃貸借契約を解除されることもありえます。また売却の際は、地主に対して「承諾料」を支払うのが一般的で、「承諾料」の相場は借地権価格の10%程度といわれます。加えて、借地権の売却を地主が承認しないという場合には、裁判所に借地非訟事件の申立てをすることができます。
以上の通り、借地権の相続には、借地権ならではの注意点があります。判断に迷ったり、トラブルに直面した場合は、速やかに、弁護士などの専門家に相談するのが賢明です。
借地権を評価するときは、借地権割合という評価基準を用います。借地権割合とは土地に合わせて国が定める割合のことで、路線価図に「300A」のように語尾に表記されるアルファベットで確認可能です。A:90%からG:30%の間で設定されています。
基本的には自用地評価額に借地権割合をかけて求めます。
たとえば「300E」と評価された土地の場合、自用地評価額 300千円=30万円で1m2あたり30万円、借地権割合は50%です。
この条件で借地権を100m2所有している場合、30万円×100m2×0.50(50%)=1,500万円と算出されます。
原則として、課税時期(相続または贈与)において借地人が得るべき経済的利益とその存続期間を基準にします。そのほか、税務署に定期借地権等の評価明細書を申請することで評価することも可能です。
雑種地(駐車場や資材置き場など)の貸借権の評価方法と同じように、賃貸借契約の内容と利用状況に応じて評価されます。
該当する土地の自用地価額×法定地上権割合と、借地権割合のいずれか低い割合で算出します。
※地上権とは他人の土地で工作物を所有する際の、土地を使用できる権利を言います。
借地権と借地上の建物を相続するのに、地主の承諾は必要ないです。土地の賃貸借契約書の書き換えも不要ですが、相続対策行為が地主とのトラブルになる可能性もあります。
たとえば息子世帯と同居する場合、出資割合によって登記名義が決まります。借地契約は親名義、建物は息子名義で、地主に許可なく建てると「無断転貸禁止条項」に抵触する可能性があるので注意しましょう。
名義が一致しない場合、土地の売買で地主が代わった際に借地権を行使できなくなり、建物を撤去して明け渡す必要が。借地権も登記しておくと、新地主に対しても対抗できます。
借地上に建物が存在しなければ借地権は主張できません。火事などで建物が無くなった場合は、その日から2年以内に借地上に新たに建築予定がある旨を掲示する必要があります。
地代は物価や近隣の地代相場の変動により、増減額を請求できると記載されています。相続のタイミングで地代の値上げを要求されるケースがありますが、逆に借地権者からの値下げ交渉も可能です。
借地上の建物を建て替えるときは、地主の承諾が必要ですが、法律上は借りている人が強く保護されていて、地主側の事情だけで契約を解除することは難しいとされています。
もし承諾してもらえないときは明確な理由を確認しましょう。調整がつかない場合は、裁判所から借地許可を取る方法をとる必要があります。
借地権を相続する際には、親族間でのトラブルにも気をつけましょう。後に困った状態にならないためにも、以下のポイントに注意してください。
被相続人が負債を抱えていた場合、これを相続することによって相続人が不利益を被るならば「相続放棄」をして負債を負わないようにすることができます。借地権も財産権の一種ですから、放棄することも可能です。
しかしながら、借地権のみを放棄して、その他の相続財産を引き受けるということはできませんから、放棄をするか否かは、事前に相続人間でしっかりと協議して決めなければなりません。また、原則的に相続開始を知った時から3ヶ月が過ぎてしまうと放棄が認められなくなってしまいますので、この期限にもご注意ください。
借地権は複数の相続人で共有して譲り受けることも可能です。とはいえ、借地権を共有すると、それに関する処分をする際には逐一、関係者の同意が必要になってきます。
例えば借地の上に立つ建物の管理や処分をする際には、一人の相続人の判断ではできません。法律によって共有者全員、あるいは共有持分の過半数の同意が必要になりますから、何かと時間や手間がかかるようになってしまいます。また地代や公租公課の支払いを誰が負担するか、といった点もトラブルの元になりがちです。
そのため、特別な事情がない限り借地権は単独で相続した方が無難でしょう。
借地権の相続において、借地権を相続した人は地主からの不当要求について対抗できるだけでなく、地主から土地の所有権を取得した相続人に対しても同様に借地権にもとづいた主張を行うことができます。しかし、土地の所有権が第三者へ売却されて「新しい地主」が誕生した場合、土地からの立ち退きについて対抗できない可能性が存在することも事実です。
そして、そのような新しい地主に対しても立ち退きを断りたい場合、「対抗要件」として以下の2つの条件を満たさなければなりません。
借地人が土地の上にある建物について、借地権者として登記を行っている場合、それを持って第三者(新しい地主)へ対抗することが可能です。これは「借地借家法」の第10条(借地権の対抗力)として定められている規定であり、土地そのものへの登記がなくても活用することができます。
言い換えれば、物件も借家であり、借地権者としての登記がない場合は新しい地主へ対抗することができません。
そもそも借地上に登記済の建物が存在していることも対抗要件の1つです。なお、例えば火事や地震といった災害によって建物が失われてしまった場合、そこから2年間は登記簿明細や減失日を明示できる事項や、新しい建物を建てるといった旨を借地上へ提示しなければなりません。
そのため、もしも火事などによって建物が減失した場合にすぐさま適切な対応を取っておかなければ、場合によっては新しい地主からの立ち退き要求へ逆らえない可能性があるでしょう。
借地権を相続する際には上記の対抗要件などを含めて、様々な点に注意しなければなりません。ここでは一般的に気をつけるべき借地権相続時のポイントをまとめました。
借地権の対抗要件について解説した際にも記載しましたが、例えば火事や津波などで建物が焼失したり減失したりしてしまった場合、直ちに必要な対策を講じなければ、対抗要件を満たすことができなくなって借地権が消滅してしまうリスクが発生します。
そのため、借地上の建物が何らかの事由によって失われてしまった場合、必ず速やかに適切な手続きや対策を実行しなければなりません。ただし、火事などで家を失った場合、肉体的にも精神的にもショックを受けている可能性があり、不安があれば直ちに専門家へ相談して手続きなどを委託することも大切です。
地主と借地契約を結んでいる場合、契約期間の満了に先んじて地主から借地契約の更新料を請求されることもあるでしょう。
法的に見れば、借地権や借地契約の更新料は、絶対に支払わなければならない費用ではありません。しかし、現実的には借地契約の更新料は地代の補填金として考えられている場合も多く、実際に借地人が長く土地に居座ることで地主に不利益が発生することもあります。
そのため、その後も土地へ住み続けようと考える場合、地主との関係を悪化させないよう更新料の支払いに応じることが無難でしょう。
地主としては、基本的に地代の金額を値上げしたいと考えています。通常、地代の変更は物価変動や公租公課の変動、近隣の地価相場の変動といったタイミングで行われることが契約書に明記されており、現在の地代は永久に同じ金額であると保証されているものではありません。
そのため借地権を相続する際には、必ず将来的に地代が値上がりされてしまう可能性についても理解しておくことが必要です。
なお、タイミングによっては、借地人の方から地代の値下げを交渉できることも覚えておきましょう。
借地上に建物が存在していなければ、借地権が消失してしまう可能性はすでに述べましたが、物件が古くなったり減失したりした場合に新しい建物へ立て替えようとしても、地主が直ちに承諾してくれない可能性があります。
このような場合、そもそもどうして地主が建て替えや新築に応じないのか、理由を確かめることが大切です。その上でもしも合理的な理由がなかったり、不当な立ち退きが目的であったりした場合、裁判所へ申し立てて地主の代わりに許可を得ることも可能です。
借地契約は、土地を有効活用したい地主と、土地を活用したい借地人の双方においてメリットがある取引であり、双方の関係性が友好なものである限り借地権相続に関してもスムーズに進められる可能性があります。
しかし借地契約や借地権に関しては地主との関係悪化や対抗要件の消失など、様々な事情でトラブルに発展してしまうリスクがあるため、困った際には専門家へ相談して適正な対策を講じるようにしてください。