不動産相続にもある!負の遺産は相続放棄が必要
不動産は資産価値が高いため、相続時には親や先祖代々の土地を受け継ぐことが慣習でした。ところが最近では、不動産自体の価値が下がり、他方で固定資産税等の負担が生じることから、不動産を所有することは必ずしもメリットがあるとは言えない場合が多いといえます。
たとえば親が住んでいた土地や家を相続した場合、税金等の費用負担が生じます。まずは親から相続する際に相続税という税金が課せられます。相続税は一定の資産を相続する人に対して課せられる税金であり、課税される場合には、高額の税金が課税されます。
たとえその不動産に誰も住まない場合でも、管理費や固定資産税といった費用や税金の負担が生じます。
もし不動産を相続したことで、上記のような費用等の支出が家計を圧迫するようになるのなら、最初から相続をしないという選択肢もあります。それが相続放棄です。
ただし、相続放棄を選択した場合は、不動産だけではなく、預貯金など全ての遺産について放棄する必要がある点で注意が必要です。
相続すると大変!?不動産相続によるリスク
不動産の相続であっても、相続人の資産が増えるどころか、かえって負の遺産として相続人に負担が生じる懸念があります。相続した建物や土地を自ら利用せず、誰かに貸すことも売ることもできないと、税金や費用の負担だけが増えてしまいます。
建物と土地を相続するためには、場合によっては相続税がかかりますし、管理コストも生じます。建物については、人が居住しなくとも劣化が進みますし、日ごろから適切な管理をしておかないと、知らぬ間に犯罪に使われる危険性もあります。さらには火災保険などの保険料や、固定資産税の支払いも必要になります。
負の遺産に該当する3つのケース
親や先祖から引き継ぐ全ての土地や建物が負の遺産となるとは限りません。もしも負の遺産となることがある程度予測できたら、相続放棄をするという選択肢も考えなくてはいけません。不動産が負の遺産となり得るケースが主に3つあります。
まずは入居者が入らない空き家となる場合です。相続人が既に別の場所で家を所有しており、たとえ相続をしても自分や兄弟など誰も住む予定がない家であれば、誰かに家を貸すという選択肢もあるでしょう。
しかし、誰かに貸すといっても、簡単に入居者が見つかる可能性は低いのです。抵当権が設定された不動産も負の遺産になり得るといえます。抵当権が設定されているということは、抵当権者に対して被相続人が債務を負っている可能性があり、その返済を継続していかなければならなかったり、抵当権が設定されていることによって自由に売却することはできないためです。買い手のつかない土地を引き継いだ場合も負の遺産になりがちです。
周囲の条件や、人口減少などにより、不動産を売りたくても売れないケースが増えてきています。そのような場合でも不動産を所有していることで維持管理に関する費用を負担しなくてはいけないのです。
1.入居者が入らない空き家
親が住んでいた土地と建物を引き継いだものの、自分や兄弟は既に家を所有しており誰も住む予定がない場合や、親が経営していた賃貸アパートやマンションに空き部屋がある状態で引き継いだ場合、空き家の状態が長く続くことも十分あり得ます。それらの家屋は誰かに貸して賃料収入が得られれば資産として利用価値があるのですが、空き家が続いてしまった場合は維持管理費の負担が重くのしかかってしまうのです。
そうなれば資産ではなく負の遺産になってしまいます。加えて、相続時には、相続財産である土地や建物の評価額が高額な場合は、相続税を支払う必要があります。また、たとえその建物に誰も住まなくても掃除や草むしりといった管理を行う必要がありますし、万が一火事などの被害にあったときのための火災保険にも加入する必要があります。
さらには、固定資産税も大きな負担になります。これらの維持管理費や保険料、税金の支払いが重い負担となり、家計を圧迫してしまうケースも少なくありません。
2.抵当権が設定されている不動産
抵当権の設定されている不動産を相続する場合も、対象の不動産が負の遺産になり得ます。抵当権とは、抵当権設定者の占有を認めつつ、不動産の交換価値を把握する担保物権であり、抵当権者は、債務者が債務の履行をしない場合には、対象となる不動産を競売して得られた売却益から、他の債権者に優先して弁済を受けることができることになります。
たとえば住宅を購入する際、一般的には、購入する住宅を担保として銀行などからお金を借りてローンを組んで返済していきます。このローンの支払いが残っているうちは、債権者は住宅について抵当権を有している状態です。
つまり、抵当権が設定されたままということは、負債も残っているということになります。上記の例のように、被相続人がローンを完済する前に亡くなった場合、負債があるといえ、その被相続人の遺産相続においては、抵当権が設定された住宅とともに負債も引き継ぐことになるのです。つまり相続をした人が残っている負債も返済していかなくてはいけなくなります。
相続税や維持管理費に加えて負債の負担も加わりますので、経済的な負担はかなり大きくなってしまうでしょう。他の遺産と併せても債務金額のほうが多くなるような時は、不動産を相続するのではなく相続放棄をしたほうが負担を少なくできるでしょう。
3.売却できない土地
日本人は昔から土地に対する執着心が強く、先祖代々引き継いだ土地を売りたくないと考える方も少なくありません。しかしながら人口減少などさまざまな理由で土地を売りたくても売れないケースがあります。土地は所有しているだけでも固定資産税が課税され、それだけでもかなりの負担になります。
売却できない土地を相続してしまった場合でも相続税や管理費、固定資産税の支払いが必要になり、その負担が年々重く感じるようになってきてしまうのです。初めから使わない土地だとわかっていれば相続前に売却するのも手段のひとつです。売却時には不動産会社選びにも注意が必要です。
不動産会社も得意不得意や実績が異なりますので、いくつかの不動産屋さんに依頼したほうが早く売却先が見つかることもあります。それでも売却先が見つからない時は、相続放棄も選択肢のひとつとして考えておきましょう。相続放棄することで、土地を相続する際の税金や固定資産税、管理費を支払う必要もなくなります。
相続債務の調査方法
人が亡くなると基本的にはその子供や配偶者が資産を引き継ぐことになります。自ら相続放棄をしない限りは遺産を相続することになるのですが、心配なのが借金や負債まで相続の対象となってしまう点です。
そのことを知らずに相続をしてしまうと、経済的負担が大きく増えてしまうことになることがあります。そこで、相続時の負担増を避けるために設けられている制度が相続放棄です。負債の有無を事前に調べるのは簡単ではありませんが、方法はいくつかあります。まずは郵便物チェックです。
家族に内緒で借金しているケースも多いのですが、本人宛に書面が送られてきているはずですので、その内容をチェックします。もしくは銀行口座の入出金明細をチェックすることで、借金の有無を知ることもできます。他にも信用情報の開示を求めることで、借金があるかどうかを調べられます。クレジットカードを作成するときやローンの審査などでは信用情報を調べた上で、許可が出ます。この情報を本人や相続人が請求すれば開示してもらえるのです。
遺言書の作成について
遺言書は、必要な要件を欠けば無効となる法律文書であるため、作成には専門的知識を要します。また、遺言者の意思を反映する内容が記載されるため、作成後に遺言者の心境が変化することに伴い、内容に不都合が生じることもありえます。
遺言者の財産も、年月が経つにつれて価値が変動します。
自筆証書遺言を作成する場合にパソコンを使うことはできない
自筆証書遺言を作成する場合、「自筆」であることが要件となるため、パソコンで作成した遺言書の効力は認められません。自筆証書遺言については、全文自分で記載する必要があります。自筆を求められる理由は、自らの手で書くことで偽造や変造を困難にし、また、遺言者の真意に基づく遺言であることを担保するためです。
遺言書を残しておくことによって相続人間のトラブルを防ぐことが可能です。病気や障害などから自筆が難しい場合には、公正証書遺言や秘密証書遺言であれば、自筆でなくとも作成が可能です。
公正証書遺言は、パソコンで作った書面をそのまま遺言書にはできませんが、作成書面を公証役場にて公証人の前で内容を口頭で伝えて公証人が遺言書を筆記します。
秘密証書遺言も、公証役場で公証人が関与し、遺言者がパソコンで内容を作成して署名・押印し、その遺言書を封じ、同じ印章で封印する、という手順で作成することが可能です。ただし、署名部分はパソコンで作成することはできません。
遺言書は、方式によって有効となる要件が異なるため、弁護士に作成について相談してみることがおすすめです。
自筆証書遺言の訂正方法には決まりがあるのでチェックしておこう
遺言書は内容が間違っていた場合に、変更や削除、加筆する場合には、決められた方法による訂正が必要です。訂正方法に不備があれば変更や削除、加筆した部分は無効です。
間違った場所を指示して変更する旨を付記し、変更場所を二重線で消し、訂正印を押します。訂正印は遺言書で押印したものと同じ印を使います。変更した内容を付記する部分で、何文字加えて何文字削除したかも記載して署名を行います。
以上の通り、変造・偽造を防ぐために普通の書面よりも訂正方法が厳密に定められています。二重線ではなく斜線で訂正した場合、裁判所において訂正として有効と判断されない例もあります。
また、訂正は手間だけでなく、訂正部分が多くなることで複雑な内容の遺言書となってしまうため、誤りや変更したい箇所がある場合は、初めから作成し直すことが望ましいといえます。時間の経過とともに訂正したい点も生じる可能性がありますので、定期的に見直しをして作成し直すようにしましょう。
自筆証書遺言の場合は内容が不明瞭になりやすいので気を付ける
自筆によらずに作成した場合だけでなく、修正液で訂正していたり日付が入っていなかったりする場合にも、方式の不備となります。
ビデオや録音などの音声で作成した遺言も認められません。記載内容についても、預貯金の記載があっても株式などの記載が漏れていたり、記載のある不動産やない不動産など曖昧な記載があったりした場合は不明瞭と判断されます。
遺言の内容は誰がみてもわかるように、些細なことでも細かく記載指摘、署名は戸籍に記載されている漢字を使ってフルネームで記入します。押印も忘れがちなので注意しましょう。
押印は認印でも可能ですが、偽造を防止するためにも実印がおすすめです。
遺言書を作成した遺言者が、記載しなくても問題ないと考えて省略したことが不備になることが多いといえます。
遺産相続に詳しい弁護士が最適
普段仲の良い兄弟や親戚の間柄でも、遺産相続の際にトラブルになるケースが少なくありません。スムーズに相続に関する手続きを行うためにも、弁護士に相談しておくと安心です。弁護士を選ぶときも、遺産相続に詳しい、遺産相続に関する対応の経験が豊富な弁護士を選ぶようにしましょう。
遺産相続に関する対応について経験が豊富な弁護士は遺産相続に関する専門的な知識があり、さまざまな相続案件に携わってきているため、スピーディーな問題解決や手続きが期待できるからです。
弁護士事務所の多くが事務所のウェブサイトを開設していますので、そこでその事務所や所属弁護士の得意分野や実績についてある程度調べることができます。初回の相談だけなら無料で応じてくれる事務所もありますので、対応などを調べるためにも相談に行ってみましょう。
話を聞いてくれる弁護士が心強い
司法試験制度の改正により、弁護士の数は増加しています。法テラスなどの制度も設けられて、弁護士に気軽に相談できる機会が増えていますが、弁護士にもいろいろなタイプがいますので弁護士選びには注意が必要です。
相続について相談したいことが生じた場合には、相続について詳しいだけでなく、こちらの話をよく聞いてくれる弁護士を選ぶことが理想です。
こちらの話を聞いてくれるということは、依頼内容や相談したい事を的確に理解しようと努めてくれているといえ、信頼できるためです。相続に伴うトラブルはデリケートな問題ですので、信頼できる弁護士に任せた方が安心です。
また、ご自身の死後に、法定相続人ではなく第三者への財産分与を検討しているなら、遺言書を作成することで財産を遺贈できます。遺言書は自分でも作成できますが、ご自身の死後に遺贈を滞りなく実現させるためにも、詳しい弁護士に相談することが適当です。遺贈が行われた場合、遺言書の内容によっては、法定相続人である配偶者やその子供たちとの間でトラブルが起こることが少なくないからです。
弁護士であれば、法定相続人と、遺贈を受ける人との間で、できる限り円滑に手続きが完了するように、法的な立場から最適なアドバイスをしてくれるでしょう。また遺言書も適切に作成しないと、その効力が生じない場合もありえます。確実に遺贈するためには、弁護士のアドバイスを得ながら法的にも効果のある遺言書を作成することが望ましといえます。
遺贈を受ける人の立場も考慮する
法律では法定相続人である配偶者や子供に相続財産が分配されるように定めていますので、法定相続人は一定程度の遺産を受け取れるものだと見込んでいるでしょう。そのため、被相続人が法定相続人ではない第三者に財産を遺贈するという事実が発覚した場合、その受取人と法定相続人との間でトラブルが生じる可能性があります。そういったトラブルが原因で第三者が快く遺産を受け取れなくなるかもしれません。
遺贈は遺言書の作成によって行えますが、その作成時には遺贈を受ける人の立場や、法定相続人との関係もよく考えておく必要があります。遺贈する立場にある遺贈者は、生きているうちにその点についても法定相続人である配偶者や子供たちとよく話し合いをし、理解を得られるように努めましょう。
また死後に遺贈を受ける人がトラブルに巻き込まれないように、弁護士に相談して対策をとっておくと安心です。
相続放棄について
不動産は価値ある資産の一つとして考えられていましたが、近ごろは不動産の相続を放棄する、もしくは被相続人が生前に売却等の処分をするケースも少なくありません。それは人口減少などが原因で不動産の価値が下落していることや、不動産を譲り受けたとしても、所有に伴う支出ばかりが多くなってしまうからです。
資産となると思って相続した不動産により、逆に負担が増えてしまうのは本末転倒です。そのような負の遺産は相続せずに放棄することも可能なのです。
相続放棄の手続きは専門家に
遺産には不動産や預貯金のようなプラスの資産もありますが、借金などの負の遺産も相続の対象となるのです。遺産相続によってそれらの遺産を全て引き継いでしまうと、借金の返済義務も相続人が負うことになり、返済しなければ相続人の財産が差し押さえられる可能性もあります。
そのような負の遺産があることが予めわかっているのであれば、相続放棄することも手段のひとつです。ただし、相続放棄をすると、負の遺産だけでなく、預貯金などの資産となる遺産も全て相続を放棄することになってしまいます。
そのため、借金があるからという単純な理由で、相続放棄をしてしまうと本来受け取れるはずの資産までも失うことになってしまうのです。相続放棄を行うときは、専門家に相談して慎重に手続を行うようにしましょう。
相続放棄をする場合は慎重に
相続する予定の財産の中に、負の遺産(借金や、持っていても莫大な維持費だけがかかる土地など)が見つかったときは、相続放棄を検討してみましょう。ただし負の遺産があったとしても全てのケースにおいて相続放棄の手段が最適だとは限りません。
しかも、一度相続放棄の手続きを行ってしまうと、原則として相続放棄の撤回や取り消しはできなくなります。だからこそ手続きは慎重に行う必要があるのです。
ただし、例外もあります。
相続放棄の撤回や取り消しが認められる場合とは、詐欺又は強迫による相続放棄であった場合、未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄した場合、成年後見人がいるにもかかわらず、成年被後見人が後見人の同意を得ないで相続放棄をした場合、被保佐人が保佐人の同意を得ないで相続放棄をしてしまった場合等です。
また、相続放棄の申述が受理される前であれば、相続放棄の申述を取り下げることは可能です。この場合は、正式に裁判所で相続放棄の申述が受理されているわけではないので、取り下げても他の相続人や利害関係者に影響がないためです。
場合によっては相続放棄以外の手続きが適当である場合もありますので、法律の専門家である弁護士に相談してみることが望ましいといえます。弁護士に相談してみてやはり相続放棄が最適な手段だと判断された場合でも、弁護士に依頼すれば、手続きもスムーズに行ってもらえるでしょう。
相続放棄をすることで他の相続人の相続分が増える場合がある
法定相続人は、複数人存在し、その人たちの間で遺産が分配されるケースが多いといえます。相続放棄の手続きは、個別の法定相続人がそれぞれ個人で行うことができる手続きですので、相続放棄の手続きを行っていない法定相続人は、他の法定相続人が相続放棄の手続きを行ったとしても、遺産を受け取ることができます。
相続順位が同等の法定相続人が相続放棄をすれば、他の相続人の相続分は増えることになります。また、もしも遺産分割協議を行う必要がある場合には、法定相続人全員が集まって話し合いを行う必要がありますが、相続放棄を行った人は、相続人とならなかったこととなるため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。法定相続人が相続放棄をしたか否かは、家庭裁判所などを通じて法定相続人による相続放棄の有無を照会することができます。
相続放棄の手続き
相続放棄をするためには、家庭裁判所において相続放棄の申述手続きをしなければならず、この手続きには、いくつか必要な書類があります。
相続放棄の申述をする人が誰であっても、相続放棄申述書・被相続人の住民票除票又は戸籍附票・相続放棄する人の戸籍謄本・収入印紙800円(申述人1人につき)・80円切手5枚程度が必要となります。
上記の他、申述人と被相続人との関係によって必要となる書類があるため、裁判所のホームページも参照ください。
相続放棄申述書が必要となる添付書類とともに提出されると、相続放棄申述受理通知書というものが家庭裁判所から申述者に届きます。この書面が届けば、相続放棄の手続きが終了したことになります。