連帯納付義務

公開日: |更新日:

このページでは、遺産相続の中でやっかいな問題になることがある「連帯納付義務」についてご紹介いたします。前もって情報を入手しておくことで、問題への備えができ、いざというときに慌ててしまうようなことは防げるでしょう。ぜひチェックしてみてください。

「連帯納付義務」とは?

「連帯納付義務」は、遺産相続の際、自分以外の相続人が相続税を滞納していた場合に、その分の税金に対して連帯責任を負って納付しなければいけないという義務のことです。相続税は相続人それぞれではなく、相続された財産全体に課税されるため、自分の分の相続税を納税していたとしても、他の相続人が納税をしていなかったのであれば、その分の税金を納めなくてはいけません。これは、裁判所が「相続税徴収を確保するために、各相続人に対して特別の責任を課す必要がある」と考えていることに起因します。

相続人全員が申告・納付の期限までに課せられた相続税を納税していれば、特に問題はありません。しかしその中の誰か1人でも滞納をしてしまった場合、その時点で国税当局は相続者全員に対し、連帯納付の請求を行うことができるようになります。

対象者

「連帯納付義務」の対象者となるのは、被相続人から遺産を相続した全員となります。複数人いる場合は、相続人同士に対して相互に「連帯納付義務」が課せられます。

負担範囲

「連帯納付義務」の負担範囲は、自身が相続により取得した財産額が限度額となっています。なお、事業などを相続し、利益の割合に差がない場合は、基本的には平等に義務が課せられることになります。なお、かなりのレアケースにはなりますが、相続人同士の間で特約が設けられている場合には、この限りではありません。

連帯納付義務が発生するケース

「連帯納付義務」が発生するケースについて、一例を挙げます。ある相続人が相続後に音信不通となってしまい、期日までに相続税の納税が履行されなかったとします。その場合、残る相続人に対して支払われるはずだった相続税の請求が行われる、ということです。また、納税者が延納を申請していたものの、その期限内に税金を納められなくなってしまった場合などにも適用されます。

なお、他の相続人が相続税の納税を滞納した場合、相続した不動産の割合によって現行の利率である年4.3%が上乗せされた金額を納税しなければなりません。

状況によっては数百万、数千万単位の金額になることもありますから、複数人で遺産相続をする場合は、必ずお互いの納税状況を確認し、トラブルが起きないように努めるべきでしょう。

納税するまで「連帯納付義務」は続く

「連帯納付義務」は、所定の納税額が全て支払われるまで、「連帯納付義務」から解放されることはありません。また、連帯納付の際は通常の相続税と異なり、延納も認められません。大きな問題にならないよう、可能であれば事前に手を打っておくようにしましょう。

連帯納付義務の手続き

「連帯納付義務」の手続きは、以下のような流れで行われていきます。

まず、本来の納税義務者が納税を怠った場合、本人に督促状が送られます。送付後、1ヵ月が経過しても完納されなかった場合に、連帯納付義務者に対して完納されていないなどのお知らせが送られます。また、連帯納付義務者に対して請求が行われる場合は、納付通知書が届きます。その後、2ヵ月が経過しても完納されない場合は、督促状が送られます。

督促状が送られたにも関わらず相続税を滞納していた場合には、財産の差押えが行われます。その場合、本来の滞納者の財産が差し押さえられるのか、連帯納付義務者の財産が差し押さえられるのかは、税務署の判断次第となっています。つまり、連帯納付義務者の財産が差し押さえられてしまうというケースも、十分に考えられるわけです。

このように、連帯納付義務者は相続税に関して非常に厳しい義務を負っています。本来の納税者がしっかりと納税をしないことで、周囲に大きな迷惑をかける、あるいはかけられることになりかねません。もし相続税の納税に関して税務署からの通知が届いた場合、身に覚えのないことであれば、速やかに税務署に連絡し、事情を確認するようにしましょう。その後、本来の納税者に納税を促すなど、しかるべき対応していくべきです。

連帯納付義務の解除要件

非常に厳しい責任を負う「連帯納付義務」ですが、解除要件も存在しています。

申告期限から5年が経過したとき

「連帯納付義務」の発生する期間は、相続税の申告・納税期限から5年間となっています。つまり、5年間が経過すれば、連帯納付義務を負わなくてよくなることがあります。ただし、5年間が経過する前に連帯納付に関しての通知があったり、実際に督促を受けていたりした場合には、「連帯納付義務」は解除とはならず、連帯納付義務者は相続税の完納まで支払い義務を負うことになります。通知に関しては、しっかりとチェックしておくべきでしょう。

納税義務者が延納・納税猶予を受けるとき

また、本来の納税義務者が税務署とやりとりを行い、延納や納税猶予を認められている場合は、連帯納付義務者が相続税を支払う必要はありません。もし、相続者に納税が困難なものがいるのであれば、そのまま放置せず、税務署に連絡・相談をしてもらうなど、適切な対応をしてもらうようにしましょう。それがゆくゆくは自身の財産を守ることにもつながっていきます。

相続放棄をしている場合

「連帯納付義務」は、被相続人から財産を相続した場合に発生する義務です。つまり、相続を放棄していた場合には、この義務が発生することはありません。

相続放棄は民法第938条において定められている権利で、家庭裁判所において手続きを行う必要があります。そこで相続放棄の手続きを行い、認められたということであれば、その人は最初から相続人ではないとみなされるため、相続税の連帯納付義務を負うことはありません。

ただし、遺産分割協議(相続人の間で誰が・どの遺産を・どの割合で被相続人の財産を相続するか話し合いで決めること)で「自分は何も相続しない」と宣言し、そのことを明示した遺産分割協議書を作成するだけでは、相続放棄とは見なされず、場合によっては連帯納付義務が課されることがあります。相続放棄を行うのであれば、後々のトラブルを避けるためにも、必ず家庭裁判所に言って所定の手続きを行うようにしてください。

連帯納付義務を無視・放置した場合

連帯納付義務者が他者の相続税未納によって督促を受け、そのまま相続税の支払いを行わなかった場合、税務署は国税徴収法第47条以下の手続きに基づき、相続税徴収のために財産の差押えを行うことがあります。

その場合に差し押さえられる財産については、法律上で明記されていません。つまり、実際の未納者の財産なのか、連帯納付義務者の財産なのかは、税務署次第ということになっているのです。

基本的には、税務署は本来の未納者の財産を差し押さえる方向で動きます。しかし、本人などと連絡が取れず手続きが非常に難しい場合、あるいは未納の額に対して財産そのものの価値が低い、そして保険料未納の生命保険などが該当している場合には、税務署が必要だと判断すれば、連帯納付義務者の財産の差し押さえを行っていくこともあるようです。

税務署からの連絡を無視、あるいは放置していた場合、最悪のケースとして自身の財産を差し押さえられてしまうということは十分に考えられます。大切な財産を守るためにも、税務署から連絡を受けた場合には、必ず放置はせずに対応していくようにしてください。

連帯納付義務の対策

では、「連帯納付義務」による財産の徴収を回避するためには、どのようにすればいいのでしょうか。現状、連帯納付義務制度についてはさまざまな批判があり、連帯納付義務者として相続税の支払い通知・督促を受けたという人が不服申し立てを行うケースも数多くあります。ただ、「相続税完納は連帯納付義務者として法律上において当然の義務」という認識から、不服申し立てはほとんどのケースで認められていません。実際に連帯納付義務者として税務署から督促を受けた場合には、原則として逃れる方法はないと考えておくべきです。

つまり、「連帯納付義務」を追わないためには、税務署からのターゲットになる前に手を打っておく必要があるのです。相続人の中に、お金にルーズであったり事業の借金などで苦労していたりするなど、相続税の納税が困難であることが見込まれる人がいる場合には、遺産分割の段階で対策をしておかなくてはいけません。あらかじめ相続税納税用の現金を多めに割り当て、その分土地などの財産の割立てを少なくするですとか、あらかじめ納税用のお金は別枠で残しておく、といった対応が現実的でしょう。また、相続後に問題が生じるケースもありますので、その場合は早い段階で税務署に連絡をしたり、相続税に明るい弁護士などに相談してもらったりするなどの対処がおすすめとなります。

なお、税務署から連帯納付義務者としての納付通知書が来る前の段階で、本来の納税義務者の相続税を立て替えるというのはあまり好ましくありません。立て替え分の返済がなかった場合に、贈与税として課税されてしまう可能性があるからです。基本的には、相続税は相続した本人が払うようにするのが賢明です。

まとめ

「連帯納付義務」は、自身に落ち度がなかったとしても他者の責任を負うことになる、非常にやっかいな制度だと言えます。「連帯納付義務」によって相続者同士の仲違いが起きる、というケースも珍しくはないでしょう。そうしたトラブルによって取り返しのつかないことになる前に、できる準備をし、打てる手は打っておくことが非常に大事になります。

もし、相続者の中にお金の問題を抱えていそう、あるいはゆくゆく抱えそうという人がいるのであれば、相続段階でそのことを踏まえた対処をするようにしましょう。もし、相続人同士だけで取り決めを行うのが難しければ、専門家に間に入ってもらうことをおすすめします。

不動産相続トラブル【兄弟姉妹編】

親と同居していた家の売却を兄弟から要求された

遺言書がないのに、勝手に不動産の名義を兄の名前で登記された

兄弟姉妹編の一覧を見る

不動産相続トラブル【夫婦編】

子供がいない場合、配偶者は全て相続できる?

内縁関係で同居していた家は遺贈してもらえる?

夫婦間の不動産の生前贈与による相続税対策はした方が良い?

夫婦編の一覧を見る

不動産相続トラブル【親子編】

両親と絶縁状態。亡くなった時に相続できる?

赤の他人に全財産を譲ると遺言書に書いてある。取り戻したい!

親子編の一覧を見る

   

このページの監修
東京スカイ法律事務所

東京スカイ法律事務所公式HP

引用元:東京スカイ法律事務所公式HP
(https://www.tsky.jp/)

このサイトは「東京スカイ法律事務所」の田中健太郎弁護士に監修していただいています。同氏は弁護士と行政書士、両方の資格を所持し、弁護士になる前は司法書士として活躍していたという経歴の持ち主。不動産相続に関する豊富な知識と実績を持つ弁護士です。
メール・電話での相談やLINEからの予約にも対応しているので、気になる事があれば気軽に質問してみましょう。

spバナー

電話で相談してみる